4.波乱の予感

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 森の小道を歩きながら――アメリアは辛い記憶に想いを馳せていた。  すると、そのときだった。背後から落ち葉の踏みしめられる音が聞こえ、それと同時に名を呼ばれる。  それは王子、アーサーの声だった。 「待ってくれ、アメリア嬢。一人では危ない。散策するなら私がご一緒しよう」 「……殿下」  突然のアーサーの登場に、そしてその申し出に、アメリアは眉を寄せる。  ――女性にだらしがないことで有名な王太子。  婚約者がいないのをいいことに、毎夜違う女を王宮に呼びつけては閨を共にするというもっぱらの噂。しかも相手は身分を問わず、貴族の子女から娼婦、使用人に至るまで、美しい娘にはすぐに手をつけるというのだから、好き者ぶりが知れるというもの。  そんな男と二人きりなどまっぴらごめん――アメリアは当然そう思った。  けれど相手は王子である。断ることなどできようはずもない。 「……森があまりに美しいものですから、つい夢中になってしまいましたの」 「そうだな。確かにここは美しい。けれど……あなたの輝きには決して及ばない」  アーサーは脈絡もなく告げると、アメリアの返事を待つことなく距離を縮める。そしてアメリアのすぐ前に立つと、にこりと微笑んだ。 「少し、歩こうか」  そこにはわずかな隙も無く、アメリアは半歩後ずさる。  ――胸に広がる何かの予感。けれどまだ事が起きていない今、逃げ出すわけにはいかない。  アメリアは仕方なく――アーサーの視線から逃れるように顔を背け――小さく頷いた。
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