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「……カエルム……殿下……」
「大丈夫ですかダレット。」
カエルムはダレットを抱えシュルトから距離をとった場所に優しくおろした。
当のシュルトは同様と怒りで動くことが出来なかった。思考の方に気を取られすぎて、言葉もたどたどしくなっている。
「なん、で………こ、ここに…」
「民を守るのが、僕の役目だからです」
混乱するシュルトに対して、カエルムは真っ直ぐな目で、言葉で答える。
その目と言葉はシュルトに大きな影響を与えていた。
「…なに、それ……守るのが役目って…反吐が出そうだよね…最悪、最悪の気分。
見たくもなかった"弟"の顔見て気分最悪だよ。
あーあ、どうしてくれんの?4番目殺して"兄さん達"に褒めてもらおうと思ったのにさー…
てめぇの首喰いちぎって"姉上"に叱られる方が先かなー…」
しかしカエルムにとっては悪影響。彼の性格上、"正常"に戻るだけだった。
狂気の笑みを浮かべて、"弟だった"彼の首を美味しそうに見つめている。
「……っ…兄上…何故兄上が吸血鬼に…」
「さー?その辺は覚えてないな。お前達のことはどういう訳か忘れてなかったんだけど。」
「兄上…僕は………」
「ん、そーゆーのいいよ。長くなりそうな話は却下。殺し合いした方が早いでしょ?」
シュルトは笑っていた。笑っているように見えた。
だが彼の中は無数の感情でぐちゃぐちゃのはずだ。
「兄上…!お願いします!僕の話を聞いてください!」
「…………」
「僕は兄上が吸血鬼になったとしても、信じています!きっと、きっと…カルト兄様は、ルイ兄様を殺していないって!もし殺していたとしても、何か事情があると分かっています!そうなんですよね?カルト兄様!」
必死に兄だったモノに声を送るカエルム… その声は彼に届くことなく、拒絶される。
「煩い……煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い!!!!!!!
耳障りだ!!!何故分からない?!ボクが殺した!ああ、殺したとも!!!お前の、ボクの、兄上である皇帝ルイヴェルド!!ソレを殺したのはボクだ!!!事情?そんなモノあるわけないだろう?!ボクは吸血鬼だ!お前ら悪魔も、上から嘲笑ってる天使共も、全部、殺し尽くして、食い尽くしてやる!!それの一端に過ぎないんだよ!!アイツを殺したのは!!」
ぐちゃぐちゃで、どろどろで、もう限界だったのだろう。
シュルトは声を荒らげた。
拒絶し、拒絶し、言葉だけでも、目の前の弟だったモノを殺そうとしている。
「兄様…でも……」
「________ッ!殿下!!」
「え?」
カエルムがもう一度声をかけようとした時、瓦礫が自分達の方に向かって来るのが、ダレットによって気付かされる。
________間に合わない…
そう、2人が思ったとき
「おぅっとぉ!殿下、ダレット、無事?」
「ヘー、どうして…」
「いやぁ…はは……思ってた以上に頑固でさぁ…」
ルベルと交戦していたはずのへーが、瓦礫を跳ね除け2人を守ったのだった。
一方、ヘーと交戦していたルベルも、弟のシュルトと対面していた。
「……………兄…さん…」
「皇帝を殺したってところは聞いた。」
「………それは…」
「"シュルト"」
「!」
言いよどみ、苦しそうなシュルトを、ルベルは真っ直ぐに見つめた。誰よりも紅い瞳で、彼の名を呼んだ。
「シュルト、それがお前の名前じゃないのか。
他に名前があったとしても、俺には一緒に戦ってくれる、弟の、シュルトのお前しか知らない。
……お前が他のお前になるって言うなら、俺は止めはしないけどな」
ルベルはそう言うと、シュルトに背を向けた。
「…相変わらず厳しいなぁ………でもさ、甘く見ないでよ。」
ははっ…と乾いたような、それでも愛情を感じる笑いを出した。
そして
「ボクは兄さんたちのことが大好きな、兄さん達の弟で、あの可愛い馬鹿達の兄の、シュルトだよ」
精一杯の嬉しさと、半分くらいの恥ずかしさで笑ってみせた。
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