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静かな夜、月が優しく白い光を意味有りげに一人の女を照らしていた。
女は後ろにゆっくりと、震える脚を半歩、また半歩と引き摺っている。
その口から何か吐き出そうとするが、恐怖の余り喉元に引っかかってしまっていた。
まぁ、声を出したところで彼からは逃げられないが。
「………絞首」
彼がそう呟くと、女は息苦しそうな表情を浮かべその場に倒れ込んだ。……死んだのだ。
「…はぁ…………」
ため息を漏らした彼の元に、長い影が背後から足音を立てずに近ずいてきた。
「おやおや、ルベル様は相変わらずですねぇ?」
彼の名前を呼んだ長身の男は、普段の掴めない喋り方でルベルを覗き込んだ。
「うるさい。」
「むぅ…どうしてわざわざ一人一人殺していくのですかぁ?一気に殺して血を集めた方がお得ではぁ?人間も、お嫌いでしょう~?」
「………帰る。開けろ。」
「まったくぅ…無視はいけませんよ無視はぁ!」
男はルベルが不機嫌になっているのに気付いていた。だからか、彼が帰るというと素直に扉を開けた。
「世界旅行」
男の唯一の能力、世界旅行によって。
名前自体は馬鹿げているが、空間の一部を歪ませ、別世界への扉を開くことが可能という、人間が持つには危険な能力である。
「ひゅ~~…んん?あ、ちょ、ちょっとルベル様ぁ!置いてこうとしないでくださいよぉ!」
力を使って疲れた男が息を調えている間に、ルベルは扉の奥へ進んでいた。
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