いつでもそばに

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翌日、ぼくはいつもより気合を入れて身支度を整えた。服装は茶色のジャケットにチェックのカラーシャツ、普段めったに履かないスラックス。ぼくの中ではスーパーに行くにはオシャレすぎるくらいだ。 昨日の一件、掲示板での謝罪だけでは気持ちが晴れず、どうしても直接会って謝りたいと思った。少しでも長話できるように比較的客が少ない午後二時頃を狙って店に向かった。 店に入るとすぐにレジスターの前に立つ桃井さんをみつけた。今日も出勤で良かった。 ぼくは適当に漬物や鯵の開き、発泡酒をカゴに入れ桃井さんのレジに来た。運良くぼくの後ろには誰も並んでいない。 「あの」 一年以上顔を合わせていたが、ぼくから声をかけたのが初めてだったせいか桃井さんは目を丸くしていた。 「そこの日の出公園で一足早く桜が咲いた話なんですが……」 「あら、もう咲いたんですか」 それ以上桃井さんはなにも言わなかった。買った商品が少なすぎて会話をする時間が足りなかった。お金を支払い、お釣りをもらった時、桃井さんが相変わらず小さな声で「仕事帰りに寄ってみます」と言った。それに被せるようにぼくは自分でも驚く事を聞いてしまった。 「今日の仕事終わりは何時ですか?」 桃井さんは再び驚いた様子を見せたあと困った笑みを浮かべ僕を見た。 「えっと……お誘い?」 側から見ても変な空気が流れていただろう。ぼくの顔からは火が出ていたに違いない。今にも逃げ出したい気持ちになった。その時うしろから 「おせーよ、早くしろよ」と、横暴な声が聞こえた。振り向くと人相の悪い三十代くらいの男がビール缶の箱を抱えて立っていた。助かった…!ぼくは桃井さんに軽く会釈だけし、店を後にした。
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