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4月5日。妻が亡くなってから雑草の住処になっている家の庭ではヒメオドリコソウやオオイヌノフグリが花を咲かせ、てんとう虫がその間を縫うように這い回っていた。
連日の陽気で桜の開花は早まり、今日、下田城址公園では桜の開花が発表された。
日の出公園の南側のソメイヨシノは先走った彼をのぞき、他は3月末には花を咲かせ始めた。しかし、この市の開花宣言は今日という事で違和感を覚える。掲示板情報によれば、各地に「標本木」に指定されたソメイヨシノがありその木を基準に桜の開花予想と満開予想を出しているのだとか。この地域の標本木は日の出公園の桜ではなく、下田城址公園の東側にあるソメイヨシノの一本で、赤い看板で印がつけられているとのこと。
「下田城址公園の標本木で開花宣言。どのくらい花を咲かせたか楽しみです」
誰も読まないのほほんルームの書き込みを終わらせ、スーパーとは逆方向にある下田城址公園へ向かった。
下田城址公園はこの地域で一番の花見スポットで、毎年4月1日から一ヶ月間は毎日屋台が並び、花見客で賑わっている。
妻が亡くなったのは二年前の5月で、その年の春はいつも通り下田城址公園で花見を楽しんだ。何を話すわけでもなく、妻がぼくの隣にいて、屋台や人混みを避けながら桜並木の道を歩く、散歩のような花見。そう言えば最後の花見で、珍しく妻が屋台の食べ物を買っていたな。味噌田楽が売っているのを見つけて少女のように喜んで食べていたっけ。
標本木に差し掛かる手前の屋台が、味噌田楽屋だったのは偶然か。コンニャクとナス、里芋が串に刺さり甘じょっぱい味噌がたっぷりかかった味噌田楽。酒のつまみには良いかもしれない。独り身にとって一セット二本売りは少し憎かった。
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