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足早に、2走の選手が見える位置へと向かう。
競技場内には、1組目の選手に向けて準備するようアナウンスが入る。
私達の学校は、2組目のスタートだった。
早く行かないと、間に合わなくなる。
少し小走りで。
太陽はもう夕日に変わってて。
朝からずっと外にいたせいで、肌は焼けてしまった感覚がある。心無しか黒くなった気がするし、ちょっと痛い。
1組目のスタート合図と同時に、私は2走の選手のスタートラインへとたどり着く。
スタンドから身を乗り出して下を見ると、ちょうど孝介先輩が準備のために出てきたところだった。
華型の2走には、やっぱり各校のエースが揃っている。先輩の周りは、名前を聞いたことがある人ばかりで。
先輩は他の選手より、少し背が低い。
でも、それでも、私は、孝介先輩が一番かっこよく見えた。
「頑張れ東海!! 」
後ろから、大きな声。
メガホン同士を打ち付ける、独特の音。
私の後ろには、東海中学校の陸上部がいた。
東海中学校は、全国大会に常連の中学校だ。
陸上部員は多く、メンバー争いも厳しい。
選手として出ている人のほとんどが、高校にはスポーツ推薦で行けるような学校だった。
「孝介先輩! 」
私1人の声が、20人以上で応援している東海中学の応援にかなうはずがなかった。
「孝介先輩! 」
もう一度、声を張り上げる。
それでも、先輩は振り向いてくれない。
割腹のいいポロシャツのおじさんが、2走の選手達に声をかける。
きっと、準備を促しているのだろう。
考介先輩は、軽く屈伸をして、自分のレーンに歩き出した。
これで駄目だったらやめよう。
そう思って、私はもう一度、声を張り上げた。
「孝介先輩!! 」
先輩は、足を止めて。
振り返ってくれて。
私と先輩の目が合って。
その瞬間、世界に2人しかいないような。
そんな感覚に陥った。
「が、頑張って....ください....」
自分の声が、ちゃんと自分から出ているのかわからなかった。
まるで小さい、呟くような声だった気がした。
なのに、先輩は。
目をそらさずに。
少しだけ、手を挙げて。
私だけに、掌を、ゆるゆると振りながら。
「ありがとう。」
そう言った。
応援なんて、もう耳に入らない。
先輩の声だけが、私の頭に響いた。
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