好きな人こそ

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「ええ、そんなことあったの? 」 「あれ、その時言わなかったっけ。」 「うーん、きいたかも。でも忘れたわ。」 だってもう8年くらい経つし、と瑞香は付け加えた。 そう。 あの時から8年。 私達は、中学どころか高校を卒業して、大学すら卒業の方が近くなってきた。 この春からは、就職活動に勤しむ。大手企業は来週には一斉解禁だ。 文系大学生の私達は、先輩たちからきいた話に不安と恐怖感を抱きつつも、会社と面接を梯子する日々をこれから送っていかなければならない。 だから、今日は、その前の決起集会。 という名の、ただの近況報告会。 高校まで一緒なだけじゃ飽き足らず、大学も近くだったおかげですっかり腐れ縁に昇格して、月に1回は必ず会っていた瑞香。 でもさすがに、次はいつこの会を開催できるかわからない。 これからの忙しい日々に、また会える日を願って。 夕方からのバイトに備えて、アイスティーとケーキで乾杯する。 「てゆーか孝介先輩のことなんて、今の今まで忘れてたわ。」 「ええ。かっこよかったのになぁ。」 「絶対思い出補正かかってるよ。それ。」 そうなのかな。 でも、絶対に違うとは、確かに言いきれない。 孝介先輩とは、中学卒業以来会っていない。 つまり、7年間。 「でも未だに、先輩への片想いソングみたいなのきくと思い出しちゃうよねー。」 「引きずりすぎでしょ。それより彼氏どうなったの。別れたの? 」 「んー....。まだ....。」 「なにやってんの、ばか。就活始まる前にちゃんと蹴りつけないと。」 7年も経てば、私だってそれなりに大人になってしまう。 人を傷つけ、傷つけられ。 汚い世界を見せつけられて。 どうにもならない不条理を知って。 それを渡っていくための小賢しさをつけて。 色んなものを、純粋な目では見れなくなって。 綺麗な女ではなくなった。 もうあの頃みたいに、全力のその先まで走ることは出来ない。 倒れても、先輩も先生も起こしてくれないから。 自分で自分を守りながら、生きていかなきゃいけない。 大人達に軽蔑と尊敬の目を向けながら、ようやく私も、「大人になったな」と感じることが増えてきた。いや、正確には、「子どもに戻りたい」と思うことが増えた。
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