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自分が汚くなったと感じるせいだろうか。
あの頃の自分が、妙に眩しい。
無性に戻りたい。
でももう、私が戻る場所なんてない。
「いつの間にこんなところまで来たんだろうね。」
「あー。なんかわかる。高校卒業してから、一日がほんと秒。」
「ね。高校くらいまでは、1年なんてすっごい長かったのに。」
「卒業してから、気がついたら3年経ってたよね。入学したのなんてこの前じゃん。」
まるで歳とったようなことを言うもんだ。
私たちの歳でオバサンだなんて感じたら、周りの大人から怒られる。
「あーあー。あの時流されて付き合わなきゃ良かったなー。」
「またその話か。」
「そしたら今悩んでないかもしれない。」
「かもしれない論は辞めなって言ってるでしょ。どうせ願ったって過去には戻れないんだよ。」
「瑞香辛辣。でも事実だなー。」
「事実だよ。考えて過去に戻れるならいくらでも悩めばいいけど、そうじゃないのに考えるのはただの時間の無駄。そんな暇あったら履歴書かいとけ。」
「あー。あと20通。書かなきゃ。」
「私あと50。」
「やば。そっちこそ早くやりなよ。」
お互いを少し罵りながら、モンブランにフォークを入れる。
クリの風味のクリームとあんまり甘くないクリーム、そしてふんわりしたスポンジが、口に広がる。最高。
「先輩に好きって言えてたら良かった。」
「あんたあの時言えたの?」
「言えませんでした。」
「ならそれが雛の精一杯だったんでしょ。いい加減振り返るのはやめなさい。」
「でも絶対いい男だったと思わない? 」
「あのねー。そういうのはね。思い出だから綺麗なの。自分の好きに妄想してるから、そっちの方が良く見えるだけ。付き合ってたら、絶対それはそれで愚痴言ってるよ。」
確かに。
瑞香は相変わらず辛辣気味だけど、正論だ。
こういうところは、何年経っても嫌いじゃない。
「本当に好きな相手こそ、近づかない方がいいのかもね。」
私はまた、モンブランを口に運ぶ。
アイスティーも飲めば、モンブランの程よい甘さと紅茶の香りが鼻に抜けて、更に最高。
「そーよ。そんなタラレバ相手に妄想するより、現実の幸せを楽しまなきゃ損。」
「現実の幸せって何? 」
「アイスティーとモンブラン。そして私。」
「さすが瑞香。最高。」
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