Prologue

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Prologue

 プラネタリウムは退屈だ。  それに価値があるとすれば、柔らかなリクライニングシートと味気ないソフトドリンクがついてくることぐらいでしかなく、最新の4Kプロジェクション機を駆使しても、それはおよそ20m分の奥行きでしかない。わたしたちはドーム径50kmというプラネタリウムを鑑賞することができるのに、その星の灯りを打ち消す明かりを地上に打ちたて、その手に取り見てしまう。その場に来てなお、スマホを見る不届き者のように。  その一方で、みんながみんなマウナケアに登ることも、あのもみじ平の山に登ることも叶わないことさえある。わたしだけが恵まれていただけ。言ってみれば、わたしはずっとこの世界最大のプラネタリウムを、一人ぼっちで見ていた。本当はそうではないのだけれど、そんな気がしていたんだ。  だからこの小都会もその人々も、小さなプラネタリウムも、学校も、分家の叔父も叔母も、何もかもが大嫌いだった。  できることならば早く、この街を出て行きたかったんだ。  なのに、なのに......  なぜわたしは、あんな男と出会ったのだろう。  植物のような平凡な彼の啓蒙で、小さなプラネタリウムが、それ以上の奥行きを持って見える。時には、涙で全ての星がすばるのように霞んでしまいそうなこともある。  今まで見えなかった世界が、彼のおかげで見えるようになってきた。それはいたって平凡で魔術的でもないけど、夢に満ち溢れたものだった。  だから、嫉妬した。    生まれつき恵まれていたはずのわたしが、彼よりも恵まれていなかったことに。  そしてその肌に湛える温もりで、今まで自分が満たされていなかったと気づいたことに。  
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