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深海のように、雨露のように深く暗い。リョウタロウの黒い瞳は、まっすぐ僕を見つめていた。そこには、檀木ルカという女の子は映り込んでいない。偽りの影でも、そうあれと定められた形でもない。そこに本当の檀木ルカがいるとでも言うかのように、深く、まっすぐにその深淵は見つめていた。
「俺と友達でいてくれるなら、お願いがあるんだ、ルカ。いつか俺がいなくなったら、この街を出て行って欲しい。向こうで君らしく、何もかも忘れて」
「......いなくなったら? どういうことよ。出来ない相談だわ。そんなこと言ってまた、恋してくれた誰かを遠ざけるの?」
「君が大切な人だからだ。恋い焦がれても友達でも関係ない。ただ、理由は聞かないでくれ。知る必要がないんだ、この街と俺のことについては......」
「犠牲に、なろうとしているのね」
とても悲しい顔だった。黒目がちの瞳は、橙色の明かりの中で揺らめいている。
「失うことの多い人生だったからな。そっから手に入れたものは大きかったけど、それが両親や、幼馴染や愛した人に成り代わってくれるわけじゃないからさ。もし君が大金を手に入れたとして、それなのに君に残された時間は少なかった場合。ルカはそのお金をどう使う?」
「......今の僕なら、友達と最後の時間が近づくまで豪遊するかもしれない。......今の僕にはそれ以外何も取り柄がないから間違いなく、自分のために使うなんてありえない」
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