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「面白くありませんねぇ……」
男は霹靂とした様子で言う。ちりちりと、青葉が春風に吹かれて音を立てる昼下がり。僕達は、石段の上にある神社の境内に腰を下ろしていた。
神社とは言え、何年も前に管理者が亡くなってからは廃れる一方で、石畳の先にある拝殿はすっかりと朽ちてボロボロだった。この境内で唯一整備されている場所と言えば、向かって右手にある小さな祠くらいのものだろう。かく言う祠にも、小さな皿に乗った油揚げが二枚ほど供えられているだけだ。
「面白いことなんて――」
そんな、どこにでも転がっているようなものではない。
そう告げようとした僕の鼻先に、男の細い指先を押し当てられた。彼は、口角をニマリと持ち上げ、笑っていた。いや。『たぶん』笑っていた。
僕には、男の表情が見えなかった。鼻から上を覆い隠す白い狐の仮面を被った男は、仮面に空いた二つの小さな穴から、僕の顔を覗く。殊に奇妙な男だった。
「興は大事ですよ?」
彼は言う。
「さらに大事なことは、興を求める心です!」
そうして大袈裟に両手を広げ、くるりと一回転してみせると、どこから取り出したのかも分からぬ小さな花を摘まんでいた。差し出された花に、僕は顔を近づけてみる。それから随分と演技染みた言いまわしで、興の良さを語られたのだけれど、僕にはいまいち分からなかった。
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