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彼の言動は、舞台小屋に居る役者を彷彿とさせる。誰かが作り出した意味のある物語を演じている役者。だから、彼の言動一つ一つに何らかの意味を見出そうとしてしまうのかもしれない。もしかしたら、彼は何も考えていないのかもしれないけれど、それでも僕は、彼の指先の微かな動きさえも意味ありげに見つめてしまうのだ。
「どうかしましたか?」
彼はこてんと首を傾げた。僕はどう答えて良いものかと視線を泳がせる。彼が、すっと背筋を伸ばしたのはそんな時だった。石段を登って来た、一組の親子が居たのだ。
「こんにちは。迷える人。本日はどのようなご用件で?」
男は言った。母親の方は、男を見るなりぎょっと目を見開いたが、手を繋いでいた少女は礼儀正しく「こんにちは。お狐さん」と頭を下げている。
正直、あんな変てこな男に声を掛けられたら誰だって驚くし警戒する。この場においては、きちんと挨拶を返した少女よりも、驚き小さく口を開いている母親の方が、正しい反応をしたと言えるだろう。
「お父さんが病気なの。だから、早くなおりますようにって、祠にお願いをしに来たの」
少女は堂々と対峙した。男はにまりを口角を持ち上げる。
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