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「そうですか。なら、そのお願いを叶えてあげないといけませんねぇ」
男はおもむろに指先を振る。そうして振った指先は、母親が持って居た皿の、その上に乗っかっていた油揚げをひょいと摘まんで口の中に放り込んだ。
「もぐもぐ。……ああ。美味しい。もしかして、お手製ですか? いつも供えて下さっているものと同じですね?」
母親はおずおずと頷いた。彼女は豆腐屋で働いていて、仕事が終わると余った油揚げを持って祠へとやって来る。この場所を大切に思ってくれている数少ない人間なのである。
「そんなあなた達には幸福を! そしてお父様には健康な体を差し上げましょう」
母親の手から、それとなく皿を奪い取った男は、祠にそれを供え、それから奇妙な舞いを踊り始める。その姿がやけに真剣だったものだから、疑心を抱いていた母親までも、男がなにかしらの力を持つ存在であると思ったのだろう。特に怯える様子もなく、男の奇妙な舞いを見つめていた。
そうして男は最後にくるりと身を翻し、いつのまにか指先で摘まんでいた小さな花を少女へと渡す。
「これをお父様へ。この花が、お父様の病気を治してくれるでしょう」
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