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満面の笑みで頷いた少女は花を受け取り、ゆっくりと身を翻すと、母親の手を引いて石段を下りて行く。随分と微笑ましい光景だけれど、それを見送る僕の心境は穏やかではなかった。
「……あんな事して良かったの?」
「なにがです?」
「病気を治してくれる、なんて。嘘ばっかり」
「嘘ではありませんよ。病は気から、と言うでしょう?」
適当なことばかりを言って、嘘を他人に信じ込ませる。
これじゃあ、役者と言うよりは道化師だ。
「それ、ただの迷信じゃんか……」
「ええ。そもそも、神も迷信ですからね?」
僕は少し浅く呼吸をした後、「君がそれを言うんだ?」と男を睨みつける。
「そんなに睨まないで下さい。一般論ですよ」
どことなく落胆したような声だった。僕はそんな声を出されることを意外に思って、それから仮面の下に指先を突っ込んでぽりぽりと頬を掻く男を見遣る。
「けれど、この神社を復興させたいと思う私の心は迷信なんかでは出来ていません」
まるで耳の奥に一直線に刺さるような、はっきりとした口調だった。
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