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第壱話 おごれる人
星明りって、こんなに明るかったんだ。
森の声って、こんなに通るものだったんだ。
僕の感覚が研ぎ澄まされたってわけじゃない。
周りが暗く、静かになっただけだ。
でも、それも当然。
だって、ここは、車のヘッドライトもエンジン音もない世界だから。
運命の気まぐれだか神様のいたずらだかわからないけれど、そんな世界に来てしまって以上、その環境に適応し、穏やかに生きていこう。
それ以外に道はないなら、前向きに考えるしかない。
そう思っていた。
……唸り声をあげて草原を疾走する大型トラックの荷台のリア、ローダークレーンの操縦席に座る同級生の存在さえなかったら。
「ヒャッハー!」
インカムを通して、容姿に似合わない叫び声が聴こえる。
薄暮の空に投げ飛ばされた毛むくじゃらの獣がバックミラーに映る。
「さいっこーっ!」
「陽子様! 余裕かましてる暇はないよ! 三時の方向からもう一匹!」
「まっかせなさいっ!」
陽子様がレバーとアクセルを操作する。アームが荷台ごと回転し、右横から飛びかかってきた別の個体に襲い掛かる。
「〇×△!」
クレーンの爪に挟まれた獣が、形容しがたい叫び声をあげた。
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