第壱話 おごれる人

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狒々(ひひ)ごときがこの陽子様に楯突こうなんて……」  バックミラーに映る陽子様の横顔。    長い黒髪を風になびかせる十七歳。  女子高生ミスコンの県代表にも選ばれ、ファイナリストも確実視された、誰もが認める絶世の美少女。  ……が、悪鬼の顔で叫ぶ。 「千年早いわーっ!!」  陽子様がアームを逆方向に回転させる。そして左後方で爪を開放すると、狒々を林の向こうに投げ飛ばした。 「この陽子様を倒したければ、戦車か戦闘機でも持って来やがれっ!」 「陽子様! 調子に乗りすぎ!」 「(かめ)は慎重すぎ!」  特徴のあるかわいらしい声。  ……も、違った環境で聴いていたら、心地よいものだっただろうけど。 「ねえ、亀!」  陽子様の呼びかけに、僕も思わず首をねじって直接後方を見る。   「狒々の群れをものともしないなんて、あたしたち、どう考えてもこの時代最強じゃない?」  操縦席から上半身を反転させた陽子様と目が合う。  美しい瞳に見つめられ、ドキッとする。  恋?  違う。    これは恐怖だ。  それも、僕がどうの、という個人レベルの恐怖じゃない。 「ねえねえ、やっぱこの調子で都も攻めちゃう? 攻め落としちゃう?」 「だからだめだって言ってるでしょ!」     
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