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「狒々ごときがこの陽子様に楯突こうなんて……」
バックミラーに映る陽子様の横顔。
長い黒髪を風になびかせる十七歳。
女子高生ミスコンの県代表にも選ばれ、ファイナリストも確実視された、誰もが認める絶世の美少女。
……が、悪鬼の顔で叫ぶ。
「千年早いわーっ!!」
陽子様がアームを逆方向に回転させる。そして左後方で爪を開放すると、狒々を林の向こうに投げ飛ばした。
「この陽子様を倒したければ、戦車か戦闘機でも持って来やがれっ!」
「陽子様! 調子に乗りすぎ!」
「亀は慎重すぎ!」
特徴のあるかわいらしい声。
……も、違った環境で聴いていたら、心地よいものだっただろうけど。
「ねえ、亀!」
陽子様の呼びかけに、僕も思わず首をねじって直接後方を見る。
「狒々の群れをものともしないなんて、あたしたち、どう考えてもこの時代最強じゃない?」
操縦席から上半身を反転させた陽子様と目が合う。
美しい瞳に見つめられ、ドキッとする。
恋?
違う。
これは恐怖だ。
それも、僕がどうの、という個人レベルの恐怖じゃない。
「ねえねえ、やっぱこの調子で都も攻めちゃう? 攻め落としちゃう?」
「だからだめだって言ってるでしょ!」
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