第四話 風の前の塵

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第四話 風の前の塵

「亀! いつまでぼおっとしてんの!?」  陽子様が更に顔を寄せる。 「わかった、わかったから」  だんだんと状況を思い出してきた。  僕は今、大型の助手席。  陽子様は僕の真正面。 「って、陽子様!?」  陽子様は僕の太もも、ほとんど腰の上にまたがっていた。  これって、アレな体勢で、ほとんど世にいうアレでは? 「亀、何顔赤くしてんの?」 「と、と、と、かく」 「とかく?」 「とにかく、ど、ど、どいて」  陽子様は一瞬きょとんと僕を見て、ゆっくりと視線を落とした。  と、みるみる顔が赤くなり、そして怒鳴った。 「こ、この、DVモラハラ野郎!」  そして僕から降りて運転席に座りなおす。  しばらくの無言の後、僕は深呼吸を繰り返してから訊いた。 「……で、ここはどこ? ブンギの敷地内のどこか?」 「し、し、知るか!」  陽子様はまだこっちを見ない。 「あ、あたしだってまだ気づいたばっかだし」  記憶にある限り、陽子様がこんなにしおらしいのは初めてだ。  その姿が、僕を多少なりとも冷静にさせる。  状況を整理しよう。  まず、時間は夕方か明け方。真っ暗ではないけれど、太陽は昇っていない。感覚的には夕暮れ時だ。     
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