51人が本棚に入れています
本棚に追加
「隊長、街の城壁が見えてきました」
装備を整えたエコーが馬の運転を代わり、正面に見えてきた景色をありのままに報告する。
ゲンテの街は既に持ち主が何度も変わっている。1度目は魔王軍が襲撃して占拠し、2度目にデル達が夜襲をかけて奪還。そして残存兵力から防衛できないとデル達が放棄した街を、ブレイダスの戦いから後退した魔王軍が再び占領している。
「それじゃぁ、行ってくる」
「お気をつけて、隊長」「隊長、頑張ってくださいよ!」
エコーとボーマの両極端の表情に顔を緩めたタイサは馬車を降り、ゲンテの街の城壁を見上げた。
瞬きをして表情をつくり直す。
2階建ての民家よりもやや高く積まれた城壁には多くはないがゴブリンらしき姿が見え、馬車やタイサを指差し、何かを喋っている。
上空では相変わらず複数のバードマンが警戒や巡回のために旋回していた。
タイサは視線を前に戻して西門を見る。
門の前では全身鎧を身に付けたオークが槍先を上にして立ちはだかっている。数は4体。左右に2体ずつ別れていた。
既に見つかっていたわりには数は少なく、また襲いかかってくる様子もなかった。
「統率されて命令が行き渡っているのか、それとも舐められているのか………まぁ、いきなり戦わなくて済むのは助かるな」
タイサは少し前に出ると後ろを振り返る。馬車の中では、エコーやボーマが息を潜めてタイサを見ていた。
手を振るわけにもいかない。タイサは何事もなかったかのように前を向き直すと改めてオーク達のいる門の前に向かった。
さすがに門を守るオークの1匹がタイサを指差し門の前を塞ぐように隊列を変え始めた。
まだ武器を手にしていないが、身に付けていればそれなりに警戒される。タイサがさらに足を進めると、オーク達はついに槍の向きを変え始めた。
タイサは盾の内側で左手を強く握りしめていた。気を抜けば膝から力が抜けそうだった。戦い慣れていても、1人で敵陣の中に飛び込む時は常に恐怖の連続だった。
タイサが顔を少し上げると、城壁では数匹のゴブリンが弓や鉄の玉を打ち出す筒を向けているのが見えた。
それでもタイサはゆっくりと、敵意を見せないよう歩く。
最初のコメントを投稿しよう!