第一章

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「どうした、ボーマ。もう街についたのか?」  タイサが眉を潜めながら面倒そうな顔をつくる。エコーも若干表情が苦い。  ボーマは違うと連呼して首と手を左右に勢い良く振った。 「自分には水を回してくれないんですかい!?」  タイサの横に置いてある革の水筒をボーマが指差す。 「ボーマはさっき飲んだでしょ?」  呆けた老人相手に使いそうな言葉をエコーが投げ掛ける。 「さっきって………もう4時間も前の話なんですが」 「ああ、4時間前に飲んだな………全部」  全部。タイサが最後の言葉を強調する。  4時間前。水筒を回し飲みしようとしたところ、ボーマが一気に飲み干した記憶はタイサ達にとってはまだ新しいものだった。 「今まで、そこまで水を節約しなかったじゃないですか………」 「そうだな。確かに今まで十分な水を用意してきたからな、その心配もなかった………だが今は節約しなければならい状況だ」  タイサは目の前にある荷馬車の半分を占めている巨大な黒鉄球を蹴りつける。 「こいつのせいだ、こいつの!」 「隊長おおぉぉぉう、止めてください!」  何度も鉄の塊を蹴りつけるタイサをボーマが両手を振って慌てる。   ボーマの武器である大鉄球、全ての原因がここにあった。彼の武器はその大きさと重さから、馬車で運ぶようにはできていなかった。  ブレイダスの街でデルと別れてから東門から出る直前で荷馬車が軋みだし、慌てて荷物を減らすこと1時間。さらに馬を1頭増やして対応し、騙し騙しここまでやって来た。  お陰で、食料や水を減らす結果となり、今に至る。 「どうして木の板が抜けないのが不思議だ」  タイサは仕方がない、と僅かに残った水が入っている水筒を鉄球の前に置いた。 「ボーマ、ほらお前の欲しがっていた水だ。よく噛んで飲めよ」 「隊長。それ、縁起悪いですよね、まずい奴ですよね………」  そろそろボーマの顔が震えだしたので、エコーがタイサを呼んで幕引きにさせる。タイサもその辺りを察し、ボーマに水筒を投げた。 「すまん、すまん。冗談だ」  ボーマの受け答えが秀逸過ぎて、心の中で笑いが止まらない。タイサは大きく息を吸って気持ちを落ち着かせた。
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