第四章

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「………王国だけが敵とは限らないだろう?」 「つまり、新生派の魔王軍が今後攻めてくる可能性があると………」  シドリーの言葉を前提に考えるのならば、新生派の魔王軍が動く前に実行したような口ぶりだった。それが正規の許可を得ての出撃かどうかは分からないが、時間がないと言っていた以上、この後来る魔王軍は王国を滅ぼしに来る軍隊だという事になる。 「隊長………ご批判を覚悟で、意見してもよろしいでしょうか?」 「ああ、気にせずに言ってくれ」  タイサは視線をエコーに向け、柔らかい表情で軽く手を振る。  エコーは一旦視線を逸らしたが、姿勢を正して正面を向くとタイサの目を見た。 「このまま交渉を長引かせて、新生派と魔王派とを衝突させるべきです。王国が最も少ない被害で生き残るには、敵同士で潰し合わせ、残った方を全力で叩くべきです。わざわざ私達が魔王軍の派閥争いの揉め事に付き合う必要はないのではありませんか?」 「………その通りだ」  タイサが一番最初に思いついた方針がまさにそれだった。  敵同士で潰し合いをさせ、どちらが勝つにせよ疲労したところを王国騎士団の総力をもって叩く。デルが王国騎士団を説得し、魔王軍への備えをしていれば作戦としては成り立つものであった。 「なら、なぜそこまで悩んでいるのですか?」  思いのほか流れるような会話でありながらも決断できないタイサに、エコーは怪訝な表情でタイサの顔を見上げる。 「………ここから先は根拠のない、俺の想像だけの世界なんだが」  タイサは自分でも考えすぎかもしれないと短い黒髪を捲し上げ、コートのポケットに手を入れた。
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