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「正直な所、言い伝えやら不確定な情報が多すぎて何とも言えません………だから悩んでいたのですね」
「そ。想像の範囲だけでの決断で、どこまで王国の………いや世界の歴史を俺1人が決めていいのかってね」
自分の決断が世界を救い、また滅ぼす。今までそんなことを考えてこなかったタイサは、初めて自分の能力以上の決断に迫られていた。
「情けない話だ。今までは自分の見えている世界だけを必死に守っていれば済んでいたのにな。見えない部分まで考えようとするとこれだ………皆にも随分と言われたな、優しすぎると、自分が苦しめばそれでいいのかと」
タイサは自分の手を見つめる。
開いた手は僅かだが震えている。
それは寒さから来るものではない。エコーにはそれが分かり、タイサの手と顔を交互に見つめた。
「俺はただの騎士団長だぞ。いや今は団長ですらない。硬さだけが取り柄で底辺だと馬鹿にされ続けてきた男が、どうして世界の決断を任されることになったのか」
「………隊長」
エコーは初めてタイサの心の弱さを見ていた。アリアスで戦った時はルーキーの死で落ち込むことはあっても、ここまでの顔を見せてはいなかった。
「………黒の剣をさっさと手放してしまえば、どれだけ楽になることか」
タイサは震える手を握りしめ、強く目を閉じる。
「隊長………失礼します!」「エコー? どわっ!」
瞬間、エコーはタイサに飛びかかった。彼女はタイサの頭を抱えるように両手を回すと、そのまま自分の重心を後ろにずらしてタイサを引き寄せるように倒す。
「エコー、一体何を………ふがっ!」
エコーを床に挟むように倒れたタイサが急いで起き上がろうとするが、エコーはタイサの頭を抱えた腕を緩めなかった。
むしろ力強く自分のコートに沈めていく。
「す、すみません。ですが、今だけは許してください」
エコーは顔を赤くさせながら、大きく深呼吸をする。呼吸により上下する胸が、タイサの顔が自分の胸の間にいることを強く意識させる。
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