第四章

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 タイサが目を開けると、そこは瓦礫の山だった。  あらゆるところにレンガや石垣が散開し、その量から本来足元には大きな建物があったののだろうと想像できた。  だが見上げるとまだ建物が残っている。  そこで初めてタイサはどこかの城の広間が崩れたのだと理解した。  相変わらず声もなく、音もない世界。  乾いた風が砂埃と塵を運んでタイサの顔に当ててくる。  瓦礫の中にはいくつもの死骸が埋もれていた。何十人といる多くは同じ鎧を纏った騎士だったが、3人だけ異なる装備を纏った遺体が無残に横たわっている。  全身血まみれの大男、口元から一筋の血を流している褐色の肌をもつ細身の女性、体に穴の空けた弓を持った青年。いずれも既に息を引き取っている。  タイサの横目で青年が息を切らせながらその3人に駆け寄った。  その青年を見るのは2度目だった。青年は革の鎧を身につけ、そして腰には一般的な長剣と漆黒の鞘に納められた黒の剣を携えていた。  青年は知り合いだったのか、3人の死に青ざめ、そして体を震わせて悲しんでいる。膝をつき瓦礫を叩きつけ、間に合わなかった自分の情けなさを悔いていた。  いつの間にかタイサの頬に一筋の涙が通っていた。  そして無意識に沸き起こる感情が、かつて両親を失った時と同じ虚無感に似ていることを想い出し、タイサは自分の胸に手を置く。    しばらくして青年は赤くなった目を擦り、見上げた先にある階段に飛び乗り、上を目指していった。  次に目を開けると、タイサの目の前には寝息を立てているエコーの顔があった。  部屋は明るいまま。互いにテーブルを挟んで目を閉じてしまったらしい。 「………なぜこんな夢を………」  理由は分からない。だが、記憶にない夢を見せられ、しかも現実味のある夢にタイサは言いようのない不安に駆り立てられる。  一度ならまだいい、だが二度目であった。 「………何かを伝えたいのか、それとも考えすぎか」  悩みながらタイサはエコーの顔を見る。思わず彼女の前髪を触ってみたが、エコーは全く起きる素振りがなかった。どんな夢を見ているのか、心なしか彼女が微笑んだように見えた。  タイサはエコーの顔を見て安心すると、再び目を瞑った。
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