第五章

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 だがシドリーの決意は揺るがなかった。彼女は首を左右に振り堂々と、しかし表情を柔らかくさせて話す。 「無駄死にではない。私が黒い霧になっても、その力は魔王様復活のために使われる。臣下としてこれ以上嬉しい死に方はないだろう」  自分程の存在が吸収されれば、条件の1つを満たせるかもしれない。シドリーはそこまで言い切った。  シドリーは顔の中心に皺を集めていたオセに顔を向ける。その顔は司令官としてではなく、だらしのない妹を心配する姉の顔であった。 「すまんな。お前にはまだ話していなかった」 「まだってことは姉さん」  オセが何かに気付いて慌てて周囲を見ると、仲間達が口を閉ざしていた。  アモンやバルバトスが腕を組んだままオセに向かって小さく頷く。バードマンは目を軽く擦ると、無言のまま額のゴーグルを顔にかけた。 「既に全員とは話を終えている。私に万が一のことがあれば、イベロスが代わりに指揮を執る。問題はない」 「そういうことじゃない!」  オセは感情を剥きだしてテーブルを叩き壊す。  対してシドリーは困った顔をつくりつつも、冷静にオセの感情をなだめようとする。 「落ち着け、オセ。これは姉妹の問題ではない。魔王軍の未来がかかっているのだ。何度も言っているが、お前も77柱の1人ならば使い分けるべきだ」 「魔王軍の前に、姉妹の問題だよ! もしここで姉さんを失ったら俺は1人になっちまうじゃねぇか!」必死に叫ぶオセ。  それでもシドリーは動かない。  自分だけ外されていた悔しさと、姉を失うことを止められない空しさに、オセは拳をテーブルに当てながら項垂れた。 「ちょっといいですか?」  カエデが手を上げる。  2人の言い争いに気を遣うことなく、むしろ2人を睨むようにカエデは牽制する。普段はそういった表情を見せない彼女だったが、まるで感情を隠さないような顔にタイサ達も思わず息を飲んだ。 「シドリーさん。私にもそこに兄貴がいます。もしも同じように兄貴が発言したら殴ってでも止めます」 「………それは人間の発想だ。我々には」「いいえ、同じです」  カエデはシドリーの言葉を許さなかった。
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