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「捕まっている間、たったの1日と少しですが、貴方達は私達人間とほとんど変わらない心を持っています。社会構造や考え方に対して厳格な教えを守っているだけで、心は私達と同じなんです」
それなのに、姉の死が妹にとって関係ないものとして扱えというのか。カエデはテーブルを叩くように音を立てて、立ち上がった。
そこにイベロスが両手を前に出してカエデを落ち着かせる姿勢をとる。
「カエデさん、この件は我々も十分に話し合ったのです。もちろん我々も2人の関係についても確認しました。ですが、司令官の意思は固く………」「それでは意味がありません!」
カエデの声の大きさにイベロスはややのけ反り、目を大きくさせる。
「すみません。でも、この問題はオセさんと2人で話すべき問題です。何故、それを後回しにしたのですか?」
「それは………」
シドリーがカエデを見上げるように口を開けたが、すぐにそれを閉じる。
「言い出せないその気持ちこそ、妹を大切にしたいという気持ちじゃないんですか?」
シドリーは何も言い返せなかった。
この場にいる全員が、カエデに逆らえない。そんな空気が出来上がる。
「だが、他に方法がないならば仕方あるまい」
「………方法ならあります」
タイサがここぞと小さく手を上げると、全員の視線が一斉に集まった。
タイサはカエデとオセに座るように声をかけ、空気を切り替えてから指を組んで話を始める。
「妹が失礼しました。ですが、シドリー司令官、仮にあなたが黒い霧となって魔力が剣に充填されて、今よりも状況が良くなるのですか?」
むしろ貴重な戦力が減り、目先の話では不利以外の何物でもない。
シドリーは肯定も否定もしなかったが、無言で返したことがタイサにとって反論できないものだと認識する。
「根本的な話に戻りましょう。貴方がた魔王派は新生派の行動を止めたい。王国との交渉が望めないのであれば魔王の力をもってこれを抑えたい。そうですよね?」
「………そうだ。だからこそ魔王様が封じられている黒の剣が必要なのだ」
魔王、その言葉にタイサは質問を繰り返す。
「ちなみに魔王の具体的な姿というものは伝わっていますか?」
シドリーはイベロスと目を合わせたが、彼は首を左右に振って答える。
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