第一章

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「隊長、起きてください」  タイサが再び目を開けると、そこには褐色の少女ではなく、同じ肌の色だがエコーの顔があった。タイサは馬車に背中を預けている姿勢を思い出すと、視線を左右に運んで自分が暗い夜の中にいることを理解した。 「………エコーか。ああ、済まない、目を瞑ってしまったようだ」  見張り失格だと自嘲し、自分がどのくらい寝ていたのかを尋ねると、エコーは大丈夫ですとタイサから顔を離す。 「精々2,3分程度です」 「2、3分………か」  タイサの記憶の中で感じていた時間と随分と差があった。夢にしろ、あれだけ明瞭な夢を見ておいて、数分程度で収まっていることに若干の違和感を感じていた。  だが所詮は夢である。タイサは深く気にしないことにした。  タイサはエコーにもう一度詫びると、馬車から体を離し、胸を張り肩を後ろへと動かす。体の中で左右の肩甲骨が交互に音を響かせ、固まりかけた体をほぐす。 「まだ交代まで時間はあるだろう? もう少し寝ておいたらどうだ?」  月の角度からまだ1時間は目を瞑る時間がある。タイサはエコーに馬車に戻るように勧めたが、彼女は困った顔をしながら左右の手を軽く開く。 「ボーマのいびきが大きくてこれ以上眠れません。もしもお邪魔でなければ近くで起きていても良ろしいですか?」  タイサは馬車の中で聞こえてくる大きな動物の鳴き声を聞く。確かにこれでは疲れが取れる環境ではなかった。 「分かった分かった。その代わり毛布を巻いておけ………ここで風邪を引かれても困る」 「了解です」小さく笑った。  エコーは首から毛布を体に巻き付けると、タイサのすぐ傍に立った。  エコーの口から僅かに白い息が見える。
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