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「良く知ってるな」
噂程度には、と話し出したエコーの言葉に、タイサは頭を掻いて肯定も否定もできなかった。
「まぁ、それが原因か。俺の配属先は騎士団『盾』になったという訳さ」
落ちこぼれと呼ばれた下位騎士団の中の底辺。騎士団長を傷つけたという実力をもっていながらの配属となれば、そこに人の思惑がはたらいていると考えない方が不思議であった。
だがエコーはタイサの自虐的な言葉を聞いても目を細め、遠くを見つめる。
「ですがその数年後に私は隊長と出会えました」
気が付けばタイサの腕にエコーの体が預けられていた。毛布一枚の境目はあるが、彼女の体温がタイサの腕に伝わってくるような錯覚をタイサは覚える。
タイサも彼女の行動を拒むこともなく、エコーの重みを支えた。
「隊長」
「ん、どうした」
気付けばエコーは自分の顔をタイサの腕に擦り付けている。
「私はずっと隊長についていきますから………絶対にです」
それはどちらに向けていった言葉か、タイサは返す言葉に迷った。
そして当たり障りもない言葉を選ぶ。
「好きにしろ………そういう約束だったろ」
アリアスの街で交わした約束を持ち出した。
「………不器用」
「悪かったな。そうだよ、俺は不器用なん………何だ寝たのか」
荷馬車の幌の布に体重を預け、さらにエコーはタイサの腕に顔をうずめるようにして寝息を立てていた。
タイサは小さく鼻で息を捨てると、エコーの長い髪を撫でる。戦いの中では髪を団子状にまとめるだけに、肩の下まで伸びているの彼女の姿を見る方が珍しくなっていた。
「いつも情けない男で………済まないな」
夜空を見上げ、タイサは交代までの1時間を過ごした。
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