Lost19 ⑥二人の魔王

第一章

　ブレイダスを出発すること半日。目的地のゲンテの街までの行程の６割から７割を進んだ位置にタイサ達を乗せる馬車があった。
　魔王軍との戦いにより、すれ違う人影も馬車もいない。既に日も暮れて暗くなった道だが、何度後ろを見ても誰もいない舗装された道を進むのはこの馬車だけだった。

「あと３、４時間といったところでしょうか？」
　馬車の幌に下げた魔導ランプの下、動物の革で作られた水筒を傾けて水分を体に入れる副長のエコーは、揺れる馬車の中で水筒をタイサに手渡す。
「まぁ、そんなところだな。できればそろそろ野営できる場所を見つけたいところだ」
　そこで作戦を説明すると伝え、タイサは水を含んでから蓋を閉める。
「隊長」馬車を操る御者席から男の声が聞こえた。
「しかし隊長、カエデちゃんは本当に魔王軍に捕まっているのでしょうか？」
　たった３人で魔王軍が居座る街に行って、無事に帰れるのか。エコーは、ただただその事だけが心配だった。
「隊長」また前から男の声が聞こえる。
「確証はない。だが可能性が一番高い以上は向かうしかないだろう」
　ブレイダスの街での戦いの跡から見つかったのは飛竜の死骸のみ。妹の遺体は見つかっていない。
　仮にカエデが囚われていたとして、どうやって救出するか。タイサは当てのない中での行動だったが、エコー達はそれでもついてきてくれた。
　自分にはもったいない仲間である、いやそう思うこと自体が良くないのだろう。タイサは騎士を辞めてから必要以上に気を遣うことを避けた。
「隊長おおぉぉぉう！」
「うるせぇな、聞こえないよ」「いやいや、めっちゃ聞こえてるじゃないですか！」
　思わず馬車が止まり、太った男が馬の手綱を握りしめて悔しがっている。