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第四章
貴族の館、その2階のテラスでタイサは夜空に浮かぶ2つ月の光を背中で浴びていた。
街の明かりもテラスに来たときと比べれば随分と数を減らし、より夜空の星と月の輝きが強く感じられる。
暗闇に白い煙が解き放たれた。ここに来て何度目かとタイサは自分の口から出ていくものが霧散するまでの間を目で追いかける。
「隊長、まだここにいたのですか?」
エコーが驚きながらテラスに入ってくる。彼女は一吹の風で両肩を抱くと、部屋の中にあったコートを取りに戻った。
そして再びテラスに入り、持ってきた2着のうちの1着をタイサに手渡す。
「私の分はあるので、ちゃんと着てくださいね。夜は冷えますから」
「はいはい」
タイサは受け取ったコートを身に纏うと、エコーは満足そうに頷いてから自分の分を急いで身につける。そして下ろした髪をコートの中から両手でかき出すと前のボタンを上から閉めた。
「………隊長、ボタンもつけてください」
「いや、そこまでしなくても」「ダメです」
言っても仕方がないと、エコーはタイサの前に立つと上からボタンを止めていく。
「まったく、いくつになったんですか」
「今年で30だよ。それに好きでなった訳じゃぁない」
「そう言っている間はまだまだ子どもですよ。もっと年齢にあった振る舞いをお願いします」
全てのボタンが閉め終わり、エコーはタイサのコートを軽く叩く。
「………まだ考えていたんですか?」
「ああ」
タイサは目を閉じて自嘲気味に肯定した。
―――黒の剣には魔王が封印されている。
昼の会談でシドリーが放った一言は周囲を大いに驚かせたが、使っている本人からすれば何かあるだろうと思ったが、という驚きでもあった。
シドリーは魔王が封じられている剣を持ち帰り、その復活によって魔王軍を1つにまとめ直そうという計画をタイサ達に伝えた。
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