名もなき想い

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名もなき想い

 今日は三月十四日。つまり、ホワイトデー。  高校に進学した俺もありがたい事にバレンタインデーにはチョコレートをもらう事ができて、一応、お返しは用意した。近所のコンビニで買ったクッキー。あえて、ホワイトデーじゃなくても買えるものを買った。なぜなら、あまり特別なものにしたくなくて。というのも、もらったチョコレートがとても微妙なものだったからだ。  猫のイラストが描かれたビニールの小袋に丸いチョコレートが六つ入っていたのだけれど、形は整っていない手作りのもので、一つだけ見ようによってはハート形に見えなくもないいびつな形のものが入っていた。  見た目からは作り手の苦労が伝わってきたけれど、食べてみると味は市販のチョコレートと大して変わらなかった。きっと溶かして固め直しただけのものだろう。そして、チョコレートが入った袋の中にメッセージカードが入っていて、そこには「好きです」と書かれていたけれど、差出人の名前はどこにも書かれていなかった。  この事を友人の碇に話すと、「何それ、きもっ」と、一蹴された。  気味が悪いという気持ちは俺にもあったけれど、差出人が誰なのかはおおよそ見当はついていた。     
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