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「沙都子、今、先生と話して来たんだけど、病院、家の近くの新厩橋病院に転院できるよう、紹介状を書いてくれるって。お義父さん、お義母さんの家からも近いから、こまめにお見舞いに来てもらえるね」  隆行は病室に入って、沙都子にこう切り出しました。  沙都子は、ちょっと窓の外に目をやってから、隆行の方へ顔を向け、微かに笑顔をつくって、 「分かったわ、もう最期の時が近いってことね。この病室から見える景色が気に入っていたのにな。でも、医者が病院を替われと言うのなら、言うとおりにしましょう」  と答えました。  沙都子の言うとおり、九階の病室から見える、赤城山、榛名山などの雄大な眺めは素晴らしいです。特に、冬は空気が澄んでいるので、くっきりと鮮明な大パノラマが広がっています。病院の建物は頑丈で、嵌め殺しの大きなガラス窓も厚く、外を吹き荒れているはずの空っ風で建物が揺れたり、ガラスが音を立てることもありません。街路樹の揺れや送電線のばたつきで、外に強風が吹いていることが分かる程度です。 「縁起でもないことを言うなよ。気持ちを強く持たなきゃだめだろう。退院したらドライブがてら、伊香保か草津の温泉でも行こうよ」     
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