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4.真実
『彼女』の悲鳴で俺は事の顛末をすべて思い出した。
幼馴染の橙子のこと、そして妹の律のこと。
『彼女』・・・佐十 律(さとう りつ)は俺の妹だ。
あの時俺は妹を助けられなかった。
予備校から家に帰り、ドアを開けると、玄関で父が血だまりの中に倒れていた。
奥でつんざくような悲鳴がする。駆けつけると、リビングでまさに妹が殺される寸前だった。
俺は急いで駆け寄り、妹をかばおうとしたが、間に合わなかった。肩に手が届くころには、妹はもう母に刺されていた。
妹の脇腹にナイフが付きたてられたのを、俺ははっきりとこの目で見た。母は笑いながら素早くナイフを引き抜いたあと、自分の首にナイフを突き立てた。
何が起きたのかしばらくわからなかった。母は普段病んだ様子など微塵も見せていなかったのだ。父との関係が悪かったわけでもない。家を出るとき、いつもと同じように挨拶をし、朝ご飯を食べ、昼と夜の弁当をもらい、家を出た。なにも変わらない日常のはずだったのだ。その日までは。
俺は昨年の冬、一家心中に巻き込まれた。母親が浮気相手との痴情のもつれから精神を病み、家族全員をナイフ片手に殺して回ったのだ。
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