2人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
5.「今」
「やめろ!」
俺は律と橙子の間に割って入り、妹をかばった。
「邪魔です、お兄さん。その人を成仏させられません」
「だめだ。成仏なんかさせるもんか。もう助けられないのはごめんだ。」
「・・・・思い出してしまったんですね、つらいことなのに。」
橙子はより一層悲しそうな目をして、俺を見つめた。
「だからこそだ。俺はどんな形に変わろうと、こいつだけは守り抜く。」
「ちょ・・・ちょっとお」
律は顔を赤らめるとうつむいた。
「だから聞いてよもー。あたしは悪霊じゃないんだってばあー」
腕を懸命に振り回し、律は自分が無実であることを訴える。
「ならなんだっていうのよ」
橙子は札をくるりと回して、俺に向かって突き付けた。
「さっきから言ってるじゃない!生霊よ!」
律は怒鳴った。
「・・・。」
橙子は眉をひそめて、怪訝そうに律と俺を見つめた。
「・・・。」
橙子とにらみ合う。なにが起きてもここを動く気はなかった。本当に必要なものは、守るべき家族だった。今、それを失っては、俺は本当に何もなくなってしまう。
「あのねお兄ちゃん」
そんな俺たちをわき目に、律はしゃべりだした。
最初のコメントを投稿しよう!