第一話・召喚されました。

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第一話・召喚されました。

「なんでもっと早く起こしてくれないの!?」  半べそをかきながら、私は家を飛び出した。車に乗り込む途中のお母さんに八つ当たりすると、お母さんは呆れながら、 「何回も起こしたわよ!」  と、口調を強めた。 「気をつけて行くのよ!」 「うるさいなぁ! 分かってるよ! 行ってきまーす! お母さんも気をつけてね」  走りながら手を振ると、お母さんは笑って手を振りかえした。  お母さんは私が高校に入学した年に仕事に復帰した。ってことは、もう一年前になるのか……。バリバリのキャリアウーマンだったらしいお母さんは、今も結構会社に頼りにされてるみたい。もちろん結婚前とは別の会社だけど。  私はそれがわりと誇らしかったりしちゃうんだなぁ。言わないけどね。 「うわああ……。それにしても、また遅刻だよぉ!」  全速力で足を動かす。それこそ、死に物狂い。  私、なんでこんなに寝るのが好きなんだろう。あとが大変って分かってるのに、中々目覚ましどおりに起きれない。この寝坊癖だけは、一生治りそうもない。 「ゆり! まぁた遅刻か?」  突然背後から、からかう声が響いた。振り返りざまに自転車が通り過ぎて行く。  自転車を漕いでいたのは、ショートカットの少女。大島かなこだ。私の、親友。っていうか、悪友?  二人でくだらないことばかりしてる。というよりは、かなこが悪ふざけをして、私が止めて。それを漫才みたいだって、他の友達が周りで爆笑してる。そういう間柄だ。   「自分だって、遅刻ギリギリのくせにー!」  私が声高に言い返すと、かなこは高らかに笑いながら自転車を猛ダッシュで漕いだ。 「ハーッハッハハ! 一足早く、学校で待ってるぞ! さらばだゆりよ!」 「いつの時代の人なの!」    私が突っ込むと、かなこはまた高笑いしながら豆粒みたいに小さくなっていった。 「まったく、もう!」  私は誰にするでもなく怒って見せて、そのあとすぐにふと笑みがこぼれた。かなこって、本当に面白い。こっちまで元気になっちゃうんだよなぁ。 「おはよう。谷中さん」  可憐な声がして、春の季節にぴったりの桜色の自転車が通り過ぎる。振り返って微笑んだ彼女の薄紅色の頬を、長くてやわらかそうな茶色の髪がなでる。  沢辺さんだ。 「がんばって」  小さくガッツポーズをして、沢辺さんは手を振った。私は反射的に手を振り替えしたけど、小さくなってしまった。  前を向き直り、走り去る沢辺さんを見送る。 「相変わらず、すっごい可愛いなぁ」  沢辺さんはクラスどころか、学校の人気者。美人なのに気取ってなくて、気さくで、優しくて、男子はもちろん女子にも好かれてる。  幸いなことに(?)同じクラスだし、女の子同士で遊びに行ったこともあるけど、どうしても憧れが先行しちゃって友達って感じにはなれない。世界が違うって思っちゃう。だって、女優さんみたいにキラキラしてるんだもん。 「私は必死こいて走ってて、あっちは自転車ですいすいだし?」  誰に言うでもない自嘲ジョークで苦笑いして、私はまたスピードを上げた。そのとき、 「~~~~~」 「え?」  耳元で、誰かが何かを言った気がした。びっくりして振り返るけど、そこには誰の姿もない。  家が規則正しく建ち並び、真っ直ぐに伸びた道路があるだけ。  車は通る気配すらない。まさしく閑静な住宅街ってやつ。 「なんだろう、今の?」  朝起きてすぐに走ったからかな? でもいつもは空耳なんてないのに。男とも、女ともつかない声音だった。 「変なの!」  私がそう吐き捨てた瞬間だった。  前方から、アスファルトの地面が急に黒く暗く染まっていった。 「なに!?」  驚いた私を、前から歩いてきていたスーツ姿の男性が不審な目で見た。 (いやいや、地面、変ですよね!?)  きょろきょろする私を、男性はさらに怪しげに見て通り過ぎてしまう。 「なんで!?」  思わず叫んだ私を、ちらりと振り返り、男性は首を傾げて歩調を速めた。 「完全におかしいやつだと思われた……でも、」  明らかにおかしい。  前方どころか、真っ直ぐに続く後方もすでに真っ黒な地面になってるのに、男性はまるで気にしてない。そのまま住宅の角を曲がっていってしまった。 「……私にしか、見えてないの? 幻覚?」  不安に押しつぶされそうになった瞬間、あっという間に闇は横に広がり、それまでもが黒く塗りつぶされた。 「やだ……なんなの?」  恐怖ですくんだ私の足を、何かが掴んだ。 「キャア!」  地面の闇が蠢く影のようになり、私の足に絡みついてくる。 「いやぁー! 助けて!」  叫んだ途端、影に全身を捕まれてしまった。
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