04 「会話」

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04 「会話」

 私の望みは、誰ともコミュニケーションを取ることなく生活していくことだが、それが叶わぬ現代である以上、人との関わりは必要最小限に押さえて、それでも関わらないといけないときは、事務的な内容に留めるというのが、私の精一杯の妥協である。しかし極端に人との関わりを持たないでいると、いじめのターゲットになってしまうことも私は知っている。だから私は積極的に話こそしないが、他人と相対するときは愛想のいいキャラという仮面をかぶっているのが現状だ。我ながらよくやっていると思う。たまにそんなことを考えて、ある意味での自分の心のバランスのようなものを維持しているのだった。  今日もまた、そんなことを考えながら一人昼食を摂ろうかとしていると、 「にっ、西野さんっ! もしよければ一緒にお昼食べさせていただけますでしょうかっ!!」  素直にびっくりした。気を取り直して、声のかかってきた方へ顔を向ける。そこには、私の隣人である瀬戸崎くんが、まさに直立不動という感じで立っていた。かすかに足は震えていたが。よく見ると彼は額に汗をにじませていた。多分冷や汗だろうと容易にわかる。でもなぜ私なんかと……。すごく様々な思考が、頭の中を好き放題に駆けまわっていく。何か裏があるのだろうか? しかし彼と私はただの隣人同士、それ以上でもそれ以下でも、彼とは関係を持った覚えなど、控えめに言って皆無だ。  様々なことを考慮しながら数秒間悩んだ結果、 「いいですよ」  承諾してしまった。まあ、断る理由などなかったのだし、ならば不用意に断るというのもあまり好ましい印象は与えないだろう。さっきまでと打って変わって、瀬戸崎くんはとてもわかりやすく安堵した表情をしている。今更だが、この回答は正解だったようだ。 「今日はお友達の方と一緒じゃないんですか?」 「あっ、えっと、どこかに行ってしまってて……」 「なるほどそういうことで……」 「……」 「…………?」  何を話すべきなのか悩んでいるのだろうか。少しの間、彼と私の間には沈黙が流れた。 「あー、えっと、西野さんはどこ出身なんですか?」 「私は慧怜中出身ですよ」 「へー、結構遠くから来てるんですね」 「はい、まあ……」 「なるほど――」  前の中学のことなど久しぶりに思い出した。その学校もほんの5ヶ月ほどしかいなかったが、そんなことをわざわざ言う義務もなければ、不用意に話すはずもない。  そんな感じで私と彼は、たまに沈黙に支配されながらも、ともにお昼を過ごしたのであった。
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