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ギャッ!!
猫はその勢いにはね飛ばされて抗議の声を上げたが、今はかまってる余裕はない。
(まさか、家の中に鳥がいる?!)
そんな恐ろしいこと。
枕元のメガネを取って、部屋の中を確認する。
狭いアパート、見回すまでもなく全体が見渡せる。幸い、迷い鳥はいなかった。
いたのは私に跳ね飛ばされて不満げな顔のデブ猫。でもその背中には、大きな羽が……。
体と同系の茶色の羽毛。それがバタバタと前後に動いている。
フリーズって、こーゆーこと?
頭も体も固まった。
向こうも今は鳴くのを止めて、私をじっと見ている。パチリと瞬きしたのは猫だった。それを機に私はようやく我に返り、叫んだ。
「えぇえええええ?!羽?羽?」
その声に驚いた猫は、さっと羽をしまって走り出す。普段の鈍くささはどこへやらの身のこなしで、タンスの上に駆け上った。
そのままタンスと天井の狭い隙間に入り込み私を見下ろす。
「ゴン太?ゴンちゃん?」
まさしく猫撫で声で、手を伸ばして名前を呼ぶ。
だがすっかり警戒モードのゴン太は、あろうことか飼い主である私に向かってシャーッと歯を剥いて威嚇してきやがった。
この野郎、いい度胸じゃないか。
あ、言い忘れましたがゴン太、名前の通り雄猫です。去勢済み。
私はすぐに台所(と言っても流しとコンロとわずかなフローリングのスペースがあるだけの)へ行って、秘密兵器”ペースト状おやつ”を手にして戻った。
その時点でもうゴン太はタンスの上から興味津々で首を伸ばしている。ぴくぴくと動く鼻が可愛い。
「フッフッフ。どうだ、この誘惑に勝てるかな?」
ゆっくりと目の前で封を切り、鼻先でブラブラと振ってみせる。
誤解のないように申し上げますが、こんな言動、家の中だけだし、猫相手だけだし。
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