猫に羽

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私の思惑通り、ゴン太はさらに身を乗り出し……てはみたものの、降りては来ない。というか、降りられないらしい。  私の手の中で揺れるおやつとタンスの下をそわそわと見比べ何度か前足に力を入れてみるが、飛び降りる踏ん切りがつかないらしい。  あれだ。猫あるある。高い所に登ったはいいが、降りられなくなるやつ。  今までゴン太は体が重くてこんな場所まで登ったことなんてなかったから忘れてたけど。 「あんたも猫だったんだね」  思わずつぶやいていた。   社会人ながら中1女子の平均身長並の私では、タンスの上の猫に手が届かない。  愛用の折りたたみ式の小さな踏み台が、押し入れの中に入っている。 「あれ、でもあんた今、背中に羽生えてなかった?それ使って降りればよくない?」  浮かんだ疑問を口にしてみるが、ゴン太はタンスの上で丸くなるばかり。  とりあえずゴン太から目を離さず、押し入れの取っ手に手をかけたその時、さらに事件は起きた。 「ヴィヴィアン!」  悲痛な男の叫び声が階下から聞こえた。  ヴィヴィアン。それはアパートの下の階のサラリーマンが飼っている猫の名前だ。  何事かと窓の外に目をやれば、真っ白い猫が真っ白い翼をはためかせて飛んでいた。 「あ……」  本日二度目のフリーズ。 「ヴィヴィアン、戻ってくれ!」  下からはまた例のサラリーマンの声。  白猫はチラリと下を見下ろし、飼い主が気になったのかうちの窓の外。落下防止の手すりの上にちょこんと座った。   ありえない。ありえないことが起きている。  猫に羽。うちの猫だけじゃなかったのか。  いや、のんびり感心してる場合じゃない。  それは猫飼いの本能。もしくは連帯感か。 『逃げた猫は捕獲』  私は手にしていた”秘密兵器”の中身をちょっとだけ押し出し、それをかざしながらそろりそろりとヴィヴィアンを驚かせないように窓に近付いた。
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