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「本当にありがとうございます」
ヴィヴィアンを抱いた上野さんは、私から目を逸らしながらお礼を言った。
うん、私の格好、そんなにおかしかったかな。
うちのゴン太は上野さんの背中に向かって部屋の隅から声に出さずに歯をむき出して威嚇している。
でも耳は完全に寝て、しっぽも下がっているから迫力もなにもあったもんじゃない。
上野さんはヴィヴィアンを取り戻して、完全に帰るモードだけど、ちょっと待て。お互い話すことがあるだろう。
「上野さん、その……ヴィヴィアンの羽、どうしたんですか?」
尋ねると上野さんも困ったようにヴィヴィアンを見て、そしてゴン太を振り返り言った。
「たぬ吉くんもなんですね。今朝、起きたら突然羽が生えてたんです」
上野さん、サラッと名前間違えたね。しかも私の『上田』と違ってどこもかかってないぞ。
まぁそう呼びたくなる気持ちも分からんではないが。
「『ゴン太』も昨日の夜はなんともなかったです」
「そうなんですよね。今朝のニュースでやってました。世界中のあちこちで飼い猫に羽が生えるという事件がおきてるみたいです」
「世界中で?それは飼い猫限定なんですか?」
なんか突然スケールがでかくなった。
「野良猫には羽が生えるという現象は起きていないようなんです。飼い猫だけ。うちのアパートでも、中川さんちのチイちゃん、藤田さんちのモモちゃん、東野さんちのジョイちゃんにも羽が生えたそうです。他の方とは連絡がとれていないのでわかりませんが……」
もうそんなに情報収集してるのか。
と、何気なく時計を見ると11時30分を回っている。朝とは言えない時間だった。
ごめん、ゴン太。お腹減ったよね。鳴いて騒いだ理由が分かったよ。
典型的なダメ飼い主だな、私は。
大家さんにバレたらアパート追い出されるかも。
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