猫に羽

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 この二階建てのアパートは、大家さんの意向で猫限定でペットOK、というか猫がいることが入居条件なのだ。飼っていない人間でも、大家さんのお眼鏡(?)に叶えば大家さん直々に保護猫の世話を任される。全室8部屋。もちろん住人全員が猫を飼っている。  私もその一人。5年前、会社の元同僚にオトコと住むのでもう飼えないからとゴン太を押しつけられ、途方にくれていたところにネットでこのアパートのことを知った。  ちなみに彼女とは以後一切のつき合いはない。  可愛い盛りの子猫を捨てて男を取るような人間とは、オトモダチになれそうにない。 「それで皆さんに声をかけて、大家さんの家に集まろうと言っていたんです」  皆さんて……、私、知らないぞ。  そんな思いが顔に出ていたのか、上野さんがおずおずといった様子で言った。 「あの……茅野さんにも大家さんから電話してもらったんですけど、誰も出なかったということで……」  ああ、寝てましたから。 「そうですか。すみません」  気まずいな。 「……あの、12時半にお昼でも食べながら話そうと言うことなので、茅野さんも来てくださいね」  そう言うと、上野さんは笑顔で帰って行った。  普通のサラリーマンだと思ってたんだけど、ずいぶん腰の低い人だな、と思っていたら、何か重くて温かくて固太りしたものが足にぶつかってきた。  本人(猫)は甘えて頭をスリスリしているつもりなんだろうけど、その体重で油断している時にやられるとあやうくコケるところだ。 「ごめん、ごめん。ご飯だね」  私はゴン太の頭をゴシゴシと撫でながら、ヴィヴィアンの食べ残した”ペーストおやつ”をゴン太にやった。   クッチャ、ペッチャ、グッチャン。  食べる音も、なんだかお上品なヴィヴィアンと違う気がした。
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