恋人ごっこ

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 目を丸くする彼に、僕は真顔で頷いた。 「ケーキ食べたいし」 「お前、辛党なんじゃ……」 「だから、そういうわけじゃ無いってば」 「うーん……面白そうだけど」 「じゃあ、決まり! ほら、行こう!」 「あ、待てって!」  僕は彼の手を繋いで引っ張って店の中に入った。 「すみません! 貼り紙のカップル限定のケーキセット食べたいんですけど!」 「いらっしゃいませ……?」  お店の人は、一瞬困惑した顔をしたけど、繋いだ手を見て「かしこまりました」と笑顔で言った。  店内は混んでいて、僕たちは一番奥の席に通された。カップルだらけの店内に、男二人。浮いている。けど、楽しい。 「ねえ、食べられて良かったよね!」 「おい、あんまりはしゃぐなって……」  彼は何だか照れ臭そうに俯いたまま僕に言う。僕はどうしてだかテンションが上がっちゃって、どうでも良いことを彼にぽんぽん話し続けた。 「それでね、その時教授が……」 「あの先生、そんなことするんだな」 「お待たせしましたー。ケーキセットですー」  ウエイトレスが機械的にケーキとコーヒーのセットをテーブルの上に並べて去っていく。一瞬、ちらりとこっちを見られたけど、気にしない。 「いただきます」 「……いただきます」  僕たちは苺の乗ったショートケーキをぺろりと平らげると、急ぎ足で店を後にした。
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