恋人ごっこ

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「笑っちゃって。エス入ってんの?」 「違うって。何か、面白かったから」 「やっぱ、エスじゃん!」  彼は持って来ていたペットボトルの水をごくごくと飲んだ。ああ、そんなに飲んだら……。 「うわあ! 口の中ヤバい!」 「目が覚めて良かったね」 「このドエス!」 「あはは」  タブレットのおかげで、僕たちは居眠りすることなく講義を受けることが出来た。  彼には帰る時までずっと「ドエス野郎」ってからかわれたけど、楽しい一日だった。  帰り道、午後五時を回った駅前は人でごった返してる。あれ……なんか、カップル多くないかな?  目の前には手を繋いで歩く若い男女。その向こうには並んで歩く高校生の男女。 「ああ、バレンタインデーか」  彼が呟いた。  なるほど。だからこんなにカップルが多いんだ。納得する僕をよそに、彼は複雑そうに顔色を暗くした。 「なんか……俺ら、浮いてるよな」 「そうかな? 気にすること無いって。人は人だよ」 「あーあ。俺も恋人と過ごしたかった。バレンタイン」 「……じゃあ、恋人ごっこする?」 「は?」 「ほら、あのお店、カップル限定のメニューがあるって」  僕は目に飛び込んで来た店の貼り紙を指差して言った。そこには「カップル限定! 特別ケーキセット!」と書かれている。 「あのお店、入ろうよ」 「……正気か?」
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