恋人ごっこ

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「ごちそうさま。ありがとう、奢ってくれて」 「いや、お返しだし」 「お返し?」 「あの辛いミントの」 「それじゃあ、釣り合わないよ。値段的に」 「良いから、気にすんなって」  お言葉に甘えて、僕は素直にケーキセットを奢ってもらった。  美味しかったなあ。限定とかじゃなくって、普段から食べられないのかなあ。 「でさ、いつまで手、繋いでんの?」 「うーん。帰るまで?」  店を出る時から、また僕たちは手を繋いだ。その方が自然だと思ったから。けど、今は不自然に距離が近い。  近すぎて、まるで彼のことが見えなくなっているみたいに、近い。   「ねえ、遠回りして帰ろうよ」  僕と彼は同じアパートの隣同士に住んでいる。そのことが縁で友達になったのだ。だから、帰り道も一緒。時間の合う時は一緒に大学に行ったり、逆に大学から帰ったりしている。 「お前、なんだか楽しそうだな」 「楽しいよ。恋人ごっこ」  繋いだ手があったかい。  外側は外気にさらされて冷たいけど、内側があったかい。  なんだかずっと繋いで居たくなって、僕は無意識に握る手に力を入れた。 「……何かさ、変な気分」 「何? 人に酔っちゃった?」 「そういうんじゃない……」 「どうしたの?」 「……お前と居るの楽しすぎ」
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