恋人ごっこ

7/7
前へ
/7ページ
次へ
 僕の提案に彼は頷いて、お付き合いがスタートした。  付き合ったからと言って、特に今までとしていることは変わらない。変わったのは……手を繋ぐことが日常になったこと。朝はさすがに繋げないけど、大学からの帰り道とか、お互いの家でとかで良く繋いでいる。  彼の手は大きくてあったかくて安心する。彼に恋は落ちるものだなんて偉そうに言ったけど、結局は僕も落ちてたんだなあ、としみじみ思う。  そして、一か月後のホワイトデー。  彼から告白されて、僕たちは付き合うことになった。  恋人ごっこから、晴れて本当の恋人になったのだ。   「あ」  僕は前に入った店に新しい貼り紙を見つけた。そこには「ホワイトデー限定! 特別ケーキセット」と書かれている。 「ね、ケーキ食べて帰ろうよ」 「良いけど……照れ臭いな」 「ね、今度は僕に奢らせてね。この間のお返し」  ふふ、と笑った彼の手を取って、僕たちは店の中に入った。   「すみません! 限定のケーキセットお願いします!」  また前と同じ店員さんだった。僕たちのことを覚えていたようで「かしこまりました」と言って席に案内してくれる。  良いでしょう。僕の彼氏。  僕は店の人、それから周りのカップルに見せつけるように繋いだ手をテーブルの上に置いて絡め合った。  照れ臭そうに彼は笑う。  僕もつられて笑った。幸せなホワイトデー。  また来年もケーキを一緒に食べられたら良いな。  そう願いながら、繋いだ手が解けないようにぎゅっと力を込めた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加