story1

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「このあと予定あるの?」 今日も仕事が帰りに女に声をかけた。部下の女子社員。見込みはB。誘うのは、3度目だ。 「仕事の話もしたいしさあ」 これは禁じ手だ。へたしたらセクハラで訴えられる可能性もある。だが、あと一押しには有効だ。目の前の女はおれを無視できずにいる。困ってる。困ってるってことは、考える余地があるってことだ。 なのに、なのにだ。 あともう少しというところで、若い男があらわれた。女は顔をぱっと赤らめ、男に手をひかれていった。 フリーって聞いてたのにな。 女は恥ずかしそうに、でもとてもうれしそうに、男について行った。まるで恋愛映画みたいだ。 会社から出てきた数人のグループが、おいてけぼりを食ったおれを、クスクスと笑っている。ははっ、まあいいさ、さあ、次、次、と自分にいいきかせ、以前合コンで知り合った女にLINEをおくる。 「いいレストランみつけたんだけど、男ひとりでいくのアレだし、つきあってくれない?」 恋愛と営業はおなじだ。成績をあげるには、訪問数をふやすことだ。足で稼げ。昔気質の先輩もたまにはいいことを言う。なにせ、おれはいま無差別連続恋愛をしているのだから。 「いいですよ♪」 冬は陽が落ちるのが早い。もう月が光ってやがる。そっか、今夜はブルームーンか。
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