大輪の弓

4/15
前へ
/327ページ
次へ
しかし劉備は妻をもっていなかったし、そんな話など義弟の関羽(かんう)張飛(ちょうひ)すら心当たりのないことである。 だが事実、孫尚香を妻だと認める劉備がいる。 その場にいた荀彧(じゅんいく)らは茫然自失とするような事態に、固唾をのんでただただ状況を見守った。 「孫尚香よ、しかしそなたはかつての世で繋がりをもっていた者。今の頃ならばまだ赤子ぐらいの齢では?」 「……」 拝伏したまま言葉を発しない孫尚香。 無反応な態度にため息をつく劉備は、 「(おもて)をあげて質問に答えよ」 そう言って孫尚香の顔をあげさせた。 「なっ?!」 孫尚香が顔をあげた途端、劉備は愕然とした。 (おもて)を上げてみるとなんと、顔をあげた孫尚香は号泣していたのだ。 「ど、どうして泣いている?!」 「うっうっ……」 劉備は訊ねるが、泣いているせいで声が出ない孫尚香。
/327ページ

最初のコメントを投稿しよう!

602人が本棚に入れています
本棚に追加