抱擁

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抱擁

廊下の冷たい床の上、息も絶え絶えの愛猫・クロは今まさに最期の時を迎えている。 私は横たわり苦しそうに荒々しく呼吸を繰り返す柔らかな腹を撫で続けた。 こんな冷えたフローリングの上で、クロは名前の通り真っ黒な体を投げ出しもうすぐ事切れてしまう。 猫に限らず、動物は死期が近づくと低体温になり、冷たい場所に居たがるらしい。 温かな布団の上、ストーブの前、こたつの中が大好きだったクロ。それなのに冷え切った廊下に居たがり、そこから動こうとしなくなった。 私が眠る時、布団の中にそっと潜り込んで来て互いの背中をくっつけて丸くなった。 夏は少し距離が開くけれど、一人と一匹は確かに手の届く場所にいて眠りについた。 小さな体。柔らかくて温かくて、愛おしい。 薄ピンクの肉球。宝石のように輝く瞳。じゃれている時に引っ掛かると痛い爪。考えごとをしている時には左右に揺れる長い尻尾。触ると細かく動かす耳。 クロは綺麗好きでいつもペロペロと体を舐め、念入りに毛繕いをする。雨の日はいつもよりよく寝ていたけれど、毛繕いをするためだけに起き上がった。 何にも言わなくても膝の上に乗って丸くなる。撫でてくれと言わんばかりにゴロリと床で仰向けになる。     
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