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二人の関係はある意味相変わらずである。
暇な週末は相変わらず二人で出掛け、出掛ければ相変わらず手を繋ぐし、夜遅くなりどちらかの部屋に泊まれば、健吾は相変わらず抱き枕のように麗子を抱きしめて眠る。そして、麗子は相変わらず健吾が好きだった。
ただ一つ変わったことといえば、健吾と一緒に過ごす時間が穏やかになったことだ。
もちろん、以前も穏やかであった。
でも、以前よりも今のほうが、麗子には心地良くリラックスできる。
この差は何か。
その答えは、健吾の部屋へ泊まった夜に麗子の腹に落ちた。
その晩、耳元で響く大きな音に麗子は起こされた。深い眠りから引きずり上げられ、微かな痛みをこめかみに感じながらその音源を探す。すぐに見つかった。
隣に眠る健吾のいびきだったのだ。
その時期、健吾は国際開発部に移動してもやっていける人材であると上司に示すため、敢えて人の倍以上の仕事を抱え、必死に働いていた。
よほど疲れていたのだろう。大きないびきをかき泥のように眠る寝顔を見つめる麗子の胸に込み上げる想いは、ときめきとか恋愛とかそういう類いとは違うものであった。
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