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「みなさん、ご起立願いまーす」
羽川の声が響く。乾杯だ。
簡単な挨拶のあと、部長が乾杯の音頭をとった。グラスの合わさる固く澄んだ音がそこかしこから聞こえる。
「よろしくお願いします」
課長や坂井とグラスを合わせたあと、澤山は麗子へとグラスを差し出した。
漠然ではあるが、澤山を苦手だと麗子は感じた。第一印象が悪かったからだろうか。彼の物怖じしない雰囲気も、チーフとしてしっかりしなくちゃいけないと常に強く意識している麗子を萎縮させる。
それがどうだろう。人懐っこそうな笑顔を見せ、麗子と乾杯をしようとグラスを傾けている。
――本当は、冷たくなんかなくて、勘違いされやすい子なのかもしれない。氷の王子だなんて思ってごめんなさい。
麗子は心の中で詫びると、澤山のグラスに自分のグラスを重ねた。
楽しく食事できそうだ、そんな予感に麗子は嬉しくなった。
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