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「笹川さんの最寄り駅と僕の最寄り駅が隣だったんですよ。それを知った羽川チーフにあなたを送るように頼まれたんです。あなたが電車もタクシーも乗りたくないと言うから、陣場町の少し先まで抱えて歩いてきましたが、今度は眠いと言いだしたので、面倒になってここに泊まりました。あと」
澤山は麗子の上の布団を掴むと持ち上げて顔を覗き込んだ。
「無理矢理、歯磨きはさせましたが、さすがに風呂には入れられませんから。シャワー浴びてきますか?」
王子はズルい。
甘い声で囁いたり、冷たい眼差しで射抜いたり、その上、惜しげもなく裸体を晒す。覗き込んでくる顔も美しい。
シャワーを浴びたら、何かされてしまうのだろうか。シャワーを勧められ、麗子は躊躇う。でも確かに、首のあたりがベタベタと気持ち悪いし、髪の匂いも気になる。うがいもしたい。
麗子は起き上がると、澤山を見上げた。
「……シャワー浴びてくる」
澤山は黙っている。麗子は立ち上がろうとベッドから足を出し、ストッキングも脱がされていることに気付いた。ストッキングを脱がされるというのは、とてもエロティックな行為ではないかとまた顔が熱くなる。
「笹川さん」
ため息交じりに名前を呼ばれた。顔を上げると、澤山が眉をしかめて麗子を見ている。
「胸見えてますよ」
視線を下げると、浮いたブラジャーから胸が少し見えている。咄嗟に麗子は腕で押さえた。
「眠るのに苦しいと言うのでブラのホックは外しましたが……」
澤山は呆れたようにまたため息をつく。
「とにかく、シャワーを早く浴びてきてください。帰りましょう」
麗子はいたたまれずに、走ってお風呂に向かった。
途中、ベッドの横の時計が目に入る。八時半を過ぎたところだった。
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