apart

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 麗子の母は東京の出身だった。  東京で父と知り合い、結婚をした。しばらくは東京で暮らしていたが、麗子が小学校に上がる前に父方の祖父が亡くなり、一人になってしまった祖母のために、父の実家のある宮城に引っ越してきたのだ。  母は仙台弁を話さなかった。嫌いなわけではなく、東京から来た自分が仙台弁を話すのはおこがましいとか、図々しいとか、そのように思っているようだった。六歳まで東京にいた麗子も、ほとんど話さなかった。  麗子が仙台弁を話さないのは母が家庭内で標準語を話すからだ、そう祖母に責められているのを偶然目撃したのは、麗子が小学三年生のときだった。そのとき、母のお腹には康大がいた。  自分のせいで母と祖母がケンカをしている、そう思った麗子は、翌日から拙いながらも家の中だけ仙台弁を話すようにした。 「麗ちゃん、おいで」  ある日、おやつを食べ終わった麗子に母は声をかけると、ソファーに座り膝をポンポンと叩いた。  麗子の顔が嬉しそうに綻ぶ。その次の瞬間、麗子は困ったように眉をひそめた。 「どうしたの?」  母の前でモジモジとする麗子の手を握ると母は優しく微笑んだ。
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