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母は、奥歯を食いしばるように口を閉じている麗子の頬を撫でたり、髪を撫でたりしていた。そのうち、潤んだ大きな瞳からそれは大粒の涙がボロボロとこぼれだした。
それでも黙って、母は髪を撫でていた。
「……だって」
桜色の唇がやっと開いた。
「だって、麗子が宮城のことばを話さないと、お母さん、おばあちゃんにおこられちゃうでしょ!」
義母との話を聞いていたのだと、母はすぐに分かった。
決して義母は怒っていたわけでもなく、嫁姑の関係は良好だ。
自分も今まで忘れていたほどに些細で、何気なく話した冗談めいていた会話が、麗子の心に傷をつけてしまっていたのだ。
「麗ちゃん」
母は麗子を抱きしめ、優しく声をかけた。いつしか麗子は、声を上げて泣き出していた。
「おばあちゃんは怒ってないのよ。今朝だって、お母さんとおばあちゃんは笑って話をしていたでしょう? 大丈夫、無理に話さなくていいのよ、大丈夫よ」
「……本当?」
母は大きく頷いた。
「……おばあちゃん、おこらない?」
「おばあちゃんが麗ちゃんに怒ったことある?」
麗子は大きく首を横に振った。
「ね? だから大丈夫よ。麗ちゃんは麗ちゃんのままでいいのよ」
「…本当?」
「お母さんが嘘ついたことある?」
麗子はまた首を横に振ると、母にギュッと抱きついた。
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